チョコとビールのおいしいベルギーに住んでウン十年。
ヴィオールをかついで旅することの多い日々。
I'm sorry, it's only in japanese...

ある人のエッセーを読んでいたら、

日本のエルミタージュ美術展に行った話が書いてあった。

そこでわたしも思い出したのである。

本場、サント・ペテルスブールに行ったときのことを。

 

フランスのル・ポエム・アルモニクというグループの

ロシアツアーの最中であった。

フランス人というのは概して文化好きである。

フランス大使館の人たちは、どの国に行っても、

自国から来た音楽家などに

その国の文化をたっぷり紹介する時間を作ってくれる。

サント・ペテルスブールでは、開館前の2時間、

私たちのためにガイド付きで特別に

エルミタージュ美術館に入場させてくれたのである。

 

だれもいない美術館に

わたしたちメンバー10人ちょっとだったか。

すごい分厚いメガネの、フランス語ぺらぺらロシア人ガイド、

国際的ザ・オバサンが張り切っている。

こっちだぞ、と。

 

まず、普段の私ならパスするギリシャ時代のコインのコーナーに

案内された。入り口の横である。

そこで懇切丁寧な迫力ある説明を聞き、30分も経った頃に

やっと次の時計ジュエリーコーナーへ。

そこに陳列されている美しい時計に関する説明を

延々と聞いている時に、

わたしはメンバーみんなの顔を見た。

 

みんな牛乳瓶の底レンズの奥にある目と、

つばを飛ばしながら親切に説明している

ザ・オバサンをじっと見て、うんうんとうなずきながら聞いている。

わたしは、日光の東照宮でのお坊さんの説明に飽きてしまい、

人の話しを聞かないやつ、と注意されたほどの強者であるから、

ギリシャのコインの時点でほとほと飽きていた。

 

このグループのメンバーはみんな人がよく、礼儀正しい。

飽きたなんて、おくびにも出している人はいない。

しかし、わたしは思った。

こんなに熱心にこのザ・オバサンの顔を見ていたら、

エルミタージュの美術品を見る時間がないではないか、と。

この人の顔しか覚えていないだろう、と。

 

それで、みんなの輪から抜け出し、

美しい時計を見るように努めた。

やっと時計の部屋が終わった時には、

すでに1時間経過!

 

あと1時間しか残っておらず、

しかし、ガイドさんはこれから甲冑の部屋に行こうとする。

わたしは、とにかくここからは自由行動で、

かっとんで歩かなければ、何も見ないで終わる、と焦った。

さすがに礼儀正しい仲間たちも同意見だったので、

無事自由行動させてもらえることになった途端、

みんな駆け足でいなくなった。

 

ベルギーから来てブリューゲルなどを見るのも

なんだと思ったが、

せっかくなのでその時代を中心に見ることにして

走った。

しかし、やっとその部屋を見つけたが、

照明と窓からの日光で、

絵がよく見えないのである。

角度を変えても、見ている自分たちが写っていて、

邪魔くさい。

舞台の照明などをやる人が、

美術館の照明はまだまだこれから変えていかないと、

と言っていたことが頭をよぎる。

 

あー、カーテンを閉めてくれ、

などと思っているうちに、

時間切れ。

走って出口を探した。

みんなは、それなりに何々を見た、と言っている。

このひと時に感謝しているようだ。

 

わたしは、惜しい!と思っていた。

ここに自分でわざわざ来ることは

そうはないと思われたし。

そして、あんなに記憶に残すまいとして努力した

分厚いメガネ顔を

もちろんいつでも鮮明に思い出せる。

あと、一枚目のギリシャのコインと。


 

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