チョコとビールのおいしいベルギーに住んでウン十年。
ヴィオールをかついで旅することの多い日々。
I'm sorry, it's only in japanese...

さて、初めて狛江の大橋先生のお宅に伺ったのは、

そんな訳(その1参照)で小学6年生の時だった。

水戸から延々3時間の道程を経てたどり着くと、

そこには田園風景が広がっており、水戸よりもずっとのんびりしていた。

その景色の中をてくてく歩いて行くと、素敵な洋館が建っており、

玄関のドアを開けて頂いたら、中は照明がヨーロッパ風に少し暗めであった。

そのちょっと暗めなのに、まず驚き、

次に大橋先生の髪の毛がちょっと長めで、

くるくるとしているのに驚いた、と言うより、

恐れをなした。

 

緊張のうちにヴァイオリンをお聞かせしたりしたのち、

帰り道の田園風景の中で、わたしは一緒に行った母に言った。

あの先生、髪の毛がくるくるしていて、なんだか怖いなあ。

母は、うーん、芸術家っていうのは、

ああいうベートーヴェンみたいな人なんじゃないの?

と答え、わたしは、もの凄く納得した。

頭の中に、学校の音楽室のベートーヴェンの絵が浮かび、

生まれたばかりのあひるが、最初に見た者を母親と思い込むのと同様で、

この人はベートーヴェンのような芸術家なのだ、という思いは

その後もずっとわたしの中から消えることはなかった。

 

 

その後、大橋先生のお宅で何年もレッスンをして頂いたのに、

こんなことを思い出しては申し訳ないかもしれないが、

もう一つの強烈な思い出は、メロンである。

当時メロンと言えば、普通の家庭でプリンスメロンが出ただけでも、

クラスメートがわっと喜ぶ果物であったが、

なんとマスクメロンが出てしまったのである。

しかも、大きく切ったスイカのようなメロンにフォークとナイフ。

 

このフォークとナイフを見つめることしばし、

もう先生の声も聞こえません。

頭の中で、これはどうやって食べるのか?がぐるぐるした。

結構です、とお断りするにはあまりにもったいないが、

スイカのようにかぶりつく訳にもいかない。

右から左から観察熟考している時間がとても長く感じられ、

いらないと思って下げられてしまったらどうする!

ということまでも頭をよぎる。

家で食事にもナイフとフォークなど使わない時代の子どもである。

 

しかし人間、切羽詰まると知恵が湧くものである。

どうにかこうにかナイフとフォークを使って食べた。

 

レッスンのことなど、何も覚えていない、

きれいにメロンを食べられた満足のためだけの、往復6時間であった。

 

つづく。

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