チョコとビールのおいしいベルギーに住んでウン十年。
ヴィオールをかついで旅することの多い日々。
I'm sorry, it's only in japanese...

わたしが留学して一年経った夏に、

ヴィーラントがブルージュのコンクールで審査員をやると言うので、

遊びに行った。

そこで前年にチェンバロコンクールで一位を取った

クリストフ・ルセに出会った。

その年はガンバ奏者であるナネケというオランダ人の伴奏で来ていたのだ。

ヴィーラントがふたりに紹介してくれて、

その場でわたしもナネケの伴奏を弾いてみることになった。

結局、いきなりコンクールで知らない同士が弾くのは無理と、

ナネケの伴奏はしなかったが、

クリストフが「パリ見物に来るなら、うちに泊めてあげるよ」

と言ったのを真に受けて、本当にパリに遊びに行った。

 

当時のクリストフのアパートはフランソワ・クープランが

オルガニストをしていた教会のすぐ裏で、

「18世紀には、あそこからカツラをかぶった

クープランが出て来たんだよ!」

と嬉しそうに言っていた。

 

泊めてくれると言ったのは本当で、

まさに寝る場所は提供してくれたが、

わたしに付き合うことは全くなく、

方向音痴のわたしは、どこへ行くにも毎日

二等辺三角形の長い両辺をわざわざ歩いているようであったので、

へとへとだった。

 

そんなある日、一緒に一度弾いてみましょう、

という時間を持った。

バッハやフォルクレを弾いたと思うが、

コンクールで一等賞の輝かしい略歴を持つ、

わたしと同い年の彼はわたしに言った。

「君は、音楽を理解していないね」

 

そこでわたしは「なるほど」と思い、

マラン・マレを片っ端から勉強しようと

夏休み終わってすぐのヴィーラントのレッスンに

まずは一曲持って行った。

そして、「わたしは、音楽を理解していないそうなので、

一から教えて下さい!」と言った。

すると彼はわたしに、

最初の出だしのフレーズはどこまで?と聞いた。

それは考えるまでもなく一目瞭然、ここでしょ、

というフレーズだったので、そう答えると、

「ほら、かおりは音楽をちゃんと理解してるじゃない?」

と言い、それだけだった。

なんだか拍子抜けしたような、安心したような気持ちになったが、

それでもその後片っ端からマレを持って行った。

 

しかしその縁あってか、

日本でコンサートをしようという企画を始める時に

クリストフに電話してみたら

行く!ということになり

東京バロックトリオの立ち上げとなったのであるから、

不思議なものである。

そして、今でも時々彼と一緒に演奏すると、

若い時にたくさん弾いて体得したアンサンブルの歩調が感じられ、

大事な縁だったな、と思う訳である。

 

 

 

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