チョコとビールのおいしいベルギーに住んでウン十年。
ガンバをかついで旅することの多い日々。
I'm sorry, it's only in japanese...

ある日、まだコンピューターがなかった頃、

ゴトゴトゴト、と音をたてながら

電話からファックスが出て来た。

 

手に取ってみて、びっくり仰天。

もちろんすべて手書きで、

最後の行に達筆な

Gustav Leonhardt。

 

ミーハーなわたしはすぐに夫に報告した。

なぜならそれは夫宛だったのだ。

今度共演するコンサートのプログラムだった。

しかし、ミーハーでないオットは、

曲目だけ確認すると

他に感慨はないようだったので、

わたしがファックスをもらって、

いつか額に入れて飾ろう、と

今日まで「あそこ」に

しまっておいた。

 

その「あそこ」は一体どこに行ったのか。

 

ともかく、娘を生んだばかりで家にいたわたしは、

このコンサートを聴きに行こう!と決めた。

しかも場所はイタリアのヴィチェンツァにある

オリンピコ劇場。

16世紀に建てられたままの舞台装置が残っている劇場だ。

 

夫は数日前に風邪を引いたまま飛行機に乗って中耳炎になり、

何も聞こえないよ、と言いながら出発し、

巨匠との共演に緊張するようすもない。

 

そんな夫や、自分の師匠であるヴィーラント・クイケン、

そしてトラヴェルソの巨匠バルト・クイケンもいたが、

ベルギー人の彼らに会うのは慣れているので、

わたしはもっぱらレオンハルトに目がくらんでいた。

 

リハーサルは当日のみ。

私は早速娘をバギーに乗せ、

わたしたちだけの客席を満喫した。

この劇場に、ムッシュー・レオンハルトあり。

なんて贅沢なんだろう。

そして、これが人生初のコンサートである娘の、

なんと高級なスタートか!

 

すっかりくつろいで聞いている私に、

突如ちょっと存在を忘れていたヴィーラント師匠が

私に向かって手招きをしている。

なんでしょう?と。

そして、おお!わたしも舞台に上がったよ。

娘も一緒にこの歴史的な舞台に!ありがとう!

 

そんなわたしに師匠が、

どんな音がするか聞きたいので、ちょっと弾いてみて、

と言うではないか。

 

娘を生む1ヶ月前からその日まで、

ガンバを練習しない日々を謳歌していたわたしは、

さーっと現実に引き戻された感があり、

あ、わたしはガンバ奏者だった、と思い出した。

え?師匠のオリジナルのガンバを、

子育てで数ヶ月楽器に触っていない私が弾いて

音が出るのか?

 

そこに追い討ちをかけるように、バルトが

レオンハルトに、かおりの伴奏をしてちょうだい、と言った。

 

ああ!あなたは知らない。

おんなが子どもを産んだ直後はね、

もう3ヶ月以上指なんて動かしてないのよ。

 

それをなんで、今ここでこの状況か。

しかも超難曲のクープランのソロだし。

 

そして、にっこりとレオンハルト氏は

わたしが弾き始めるのを待っていらっしゃる。

 

これは幸運なのか、果たして。。。

 

とてつもなく長ーい時間弾いたような1小節1小節だった。

優しく少ない音なのにゴージャスな通奏低音だというのを

おぼろげに聞いた。

 

両極端な一日だったが、素晴らしいコンサートも終わり、

夕食を食べにレストランに行ったのは

23時半をとっくに過ぎていた。

 

私と夫は、さすがに真夜中だもんね、と言いながら、

何だったか少し軽めのものを注文した。

そこで、カウンターテナーのお声のレオンハルト氏が、

ステーキとフリッツを注文。

大きなサイズのステーキがジュウジュウとテーブルに運ばれて来たのは

すでに24時だ。

 

わたしは、コンサートよりも、

この夜中に70才過ぎてステーキとフリッツを平らげる巨匠に

びっくりした。

これぞ音楽家の体力と活力の証、源、外人。

わたしも肉で勝負だな、と思った。

 

さて、次に思い出すのは、

なんといよいよ、レオンハルト巨匠の家に

泊まることに!

 

続く。

 

 

 

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グスタフ・レオンハルト。

 

名前が既に重厚である。

 

この巨匠に初めてお会いしたのは、ベルギーに留学してすぐのことだった。

オランダのコンセルヴァトワールに聴講に行ったら、

かのレオンハルト氏がバッハのh−mollミサを録音しているから、

見に行く?と誘われた。

 

ソロはルネ・ヤコブスとイザベル・プルナール。

 

ハーレム市にある教会だったと思う。

留学して、いきなりそんな巨匠と有名な歌手の録音に遭遇するとは、

ラッキー!

 

ところが、わたしは録音がどういう状況なのか

あまり把握していなかった。

何度も何度も同じ箇所をやり直すんですね。

なんと、わたしはたったの3回位聞いたら寝ちゃった、気持ちよく。

 

起きてみたら、目の前に重厚なお名前のグスタフ・レオンハルトの顔が

にっこりとしたアップでありました。

ハテ。

 

ぐうぐうが、うるさかったそうです。

すみません。

 

その次にレオンハルト先生にお会いしたのは、

お弟子さんの試験に頼まれて、

ラモーのコンセールのレッスンを受けに行った時。

初めてご自宅に。。。

まずは、緊張して着くなりトイレに。

しかし、博物館のようなお家で、トイレのドアが見つかりません。

円形の壁に隠しドアのように壁と一体化して、ありました。

トイレまでバロックだ!と感動していざレッスン。

 

まず一曲弾き終わった私にそっと近づいて来て、

巨匠はおっしゃった。

「この時代のヴェルサイユ宮殿では、

貴族たちは、ひそひそ、と上品に会話したんですよ、

だから、そっとつぶやくように弾いて下さい」

そこからわたしのこの曲のピアニッシモ演奏が始まった。

そして、その曲をお弟子さんの試験で弾いた時に、

褒められたんです。

忘れもしない、

「The balance was perfect」と小さなお声で。

聞きに来た人たちに、ピアニッシモ大会だったね、と言われたって、

それがなにさ。

その曲をピアニッシモで弾くことは、その後何年も何年もずっと続いた。

 

「レオンハルトは、その時代にそういう声でしゃべってたって、

聞いたことあるわけ?」

と、仲間に言われるまで。

 

。。。

 

さて、その次に思い出すのはイタリアはヴィチェンツァ。

 

続く。。。

 

 

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    わたしの師匠Wieland Kuijken

    こころに響く演奏をする人です。

     

    コンサートの前も、

    そのために武者震いする人です。

     

    その彼が最近のインタビューで、

    古楽器の演奏のパイオニアとして

    話していました。

     

    https://www.youtube.com/watch?v=Epf2gEe0O7Q

     

    そのコメントが、

    また人の心に響く!

     

    なにより、自分の感性を信じて

    演奏することが一番だと。

    楽譜を見て、自分が感じることを弾きなさいって。

     

    <Be yourself>

     

    それは、人生そのものです。

    自分の価値を信じ、

    自分であることを決断し、

    そのことを恐れずに生きることの難しさを

    知っている人の、

    深いコメントでした。

     

    そして、知っているが故に

    慈愛に満ちていて、

    涙が出るほど心に響くコメントでした。

     

    それが彼の演奏の源であり、

    生徒たちへの思いなんだなあと

    再確認しました。

     

    すごい師匠に出会って、

    幸せだなあ。

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